かおりの食慾

Twitterで書ききれないことや、日記のようなものもこちらに。明日が今日よりも素敵な日になるように。

私の小さな彼氏

男の子の名前はJ君。
私は彼が生まれた時から知っている。彼が生まれた時、私は中学生だった。
J君には発達障害と軽度の自閉症傾向があった。
とある地域の自治会のような場所で出会ったのだが、彼は成長するにつれ、お父さんとそっくりで目鼻立ちがはっきりして、睫毛も長くて、髪もクリンクリンで、ハーフの美少年のようだった。

身長はかなり小さかった。けどその分、彼は小学校に上がっても色んな人に抱っこしてもらえてた。

人と目を合わせるのは苦手だった。けどその伏し目がちな分、長い睫毛が可愛いと誉めてもらえてた。

誰かと一緒に作業するのは苦手だった。けどその分、彼の集中力は大人顔負けなのだ。

夢中になってることを中断されるのは苦手だった。けどその分、途中になってるお絵描きや工作は一つもない。


J君が大好きなのは「スイッチ」だ。電気のスイッチ、パソコンのスイッチ、掃除機のスイッチ、クーラーのスイッチ。
他にも色々。スマホの電源ボタン、玄関のチャイム、電話のプッシュボタン。
彼が一歩歩けば好きな物が目に入る。彼はいつも好きな物に囲まれてニコニコ走り回ってた。


J君が得意なのは折り紙。
3歳で小学校高学年用の折り紙を折れていた。
集中力が大人顔負けのJ君が折ると、折り目がずれることはない。しかも綺麗に折るのに時間をかけずに折れる。
3歳で折っていたのは、1センチずつ長さの違う折り紙を何枚も使って折った「マトリョーシカ玉手箱」だった。
出しても出しても中から一回り小さい箱が出てくる。しかも、その色は虹の配色と同じ。


スイッチが好きなJ君、パソコンを触っているうちに、いつの間にか使い方もマスターしてしまった。
5歳でYouTub●から折り紙の動画を自分で検索し、薔薇やリボン、パンダやライオンや猫やウサギの折り方を動画をなんとたった1度見ただけで覚えてしまう。
検索するうちにローマ字入力も覚えてしまった。
彼が折る動物は顔だけではない。ちゃんと4本の足までしっかり形作っている。


J君のお父さんが自治会に参加するときは、私と遊んで待つのがJ君のルールになった。
月に1回、絶対会うJ君と私。J君の方から私を見つけたら、目は合わせず、一言も発しないまま膝にチョコンと座る。
私の膝は、月に1度の特等席らしい。他の子供が座るととっても不機嫌になる。
お父さんに怒られた時も、私の膝に座る。私には怒られないと解っているらしい。
膝に座ると、好きな事をする時間。
折り紙で男の子を折った時には「これJ君」
折り紙で女の子を折った時には「これかおりちゃん」
折り紙でリボンを折った時には「女の子はかわいいからリボン」
折り紙でハートを折った時には「かおりちゃんにあげる」
ハートくれるの?と聞いたら「好きな子にはハートあげるの」
でも相変わらず目は合わせない。
J君の好きな子だぁれ?と聞いたら「かおりちゃん」
かおりちゃんの事好きになってくれたの?と聞いたら「好きな子とはお手て繋ぐの」
私たちは、手を繋いでJ君のお父さんを迎えに行った。

ほら、私の小さな彼氏。

私の膝に座れるくらい小さかった彼は、15歳になった。
私の膝には3年生まで座っていたが、4年生になると恥ずかしくなったらしく、隣に座るようになった。
中学生になる時に、彼は引っ越した。専門の学校に通うために、便利な土地に引っ越した。
私も引っ越しをした。
自治会でも会えなくなった。
時々お父さんのSNSに、彼が折った折り紙が載っている。
15歳の彼が折る折り紙は、折り紙というより彫刻品のようだった。
市販の折り紙では小さいようで、模造紙を折って身近な立体物をそっくりに作り上げている。

私の小さな彼氏は芸術家だ。
これから、彼はどんな作品を作っていくのだろう。
何歳になっても、キラキラした目で、大きな折り紙を折るのだろう。